はなかげ
Hanakage

立花明依 Tachibana Ai




鳥が鳴いている。鳥が私の腕にとまり、私の花をついばんでいる。風が吹く。風が私の花を散らす。風が私の体から、花をどんどん散らせて行く。どんどんどんどん…私の花が、あの人のために咲かせた花が散っていってしまう。なのに、あの人は来ない。あの人はまだ来ない。もうどれくらい待っただろう?一年?二年?三年?何回花をつけただろう?何回花を散らせただろう?どうして来ないんだろう?なんで来ないんだろう?どうして来てくれないんだろう?私からは会いにいけないのに。いつもは会いに来てくれていたのに。ずっとずっと、小さい頃から毎日のように会いに来てくれていたのに。花の季節も、緑の季節も、茜の季節も、雪の季節も、いつもいつも毎日のように会いに来てくれていたのに。花を愛でるあなたの目、緑に眠るあなたの息、茜に染まるあなたの顔、雪を払うあなたの手の……。あぁ、会いたい。会いたい。どうして来てくれないんだろう?どうして来なくなったんだろう?何かあったんだろうか?あの人に何か……。どうして動けないんだろう。動けたら自分から会いに行けるのに。自分からあの人の姿を見に行けるのに。あの人の姿が見たい。あの人が元気でいるところを見たい。一目でいい、会いたい。会いたい。会いたい。
人が通りかかる。
あ…
抜け出る。
…違う。
落胆し、木に戻ろうとして、自分の異変に気付く。体から抜け出している。
振り返ると、そこには、私の体が、大きな大きな桜の木があった。
…私……?
どうしてだかは分からないけれど、私は私の体から出て、そして…
一歩、歩く。二歩、三歩、と歩く。ふと足元を見る。
これは?
私の足から、光を帯びた一筋の線が出ている。それは、私の体へと繋がっている。
なんだろう、これ?
動いてみる。
その線は、私がどんなに動いても、私の足から離れずに私の後ろをついてくる。
これは、行くなということだろうか?でも、せっかく動けるのに。私から、あの人に会いに行けるのに。ここでずっとずっと待ってても、あの人はもう来ないかもしれない。だったら…だったら、私から会いに行きたい。
歩き出す。
私が歩くのにあわせて、景色がゆっくりゆっくり近付いてきて、そして流れていく。こんな風に動けるようになるなんて、自分から彼に会いに行けるようになるなんて思ってもみなかった。今、どんなところにいるんだろう?この道の先にいるのか?それとも、もっとずっとずっと向こう?彼に会ったら何を話そう。どんな話をしよう。話したいことはたくさんある。時間がいくらあっても足りないかもしれない。でも、いきなり訪ねて行ったら驚くかもしれない。私だと分かってくれないかもしれない。そうだ、花を見てもらおう。たくさん花を咲かせて…
足を止め、足元を見る。
   線が…細くなってる。私と私の体を繋ぐ線が幾分か細くなっている。光もほんの少し、弱まっているように見える。戻ったほうがいいのだろうか。でも、私は彼に会いたかった。
また歩き出す。
   私は歩いた。歩いて歩いて歩き続けた。どれくらい歩いたのか。どれくらい彼に近付けているのか。早く会いたい。早く彼の姿が見たい。線は……どんどん光を失い、どんどん細くなっていく。それでも私は歩き続けた。彼を探して歩き続けた。でも彼はどこにもいなかった。どこにいるのかも分からなかった。ずっと探しているのに。どこに行ったら会えるのか。どのくらい歩いたら会えるのか。もっと歩いたら会えるのだろうか。もっともっと、もっともっと歩いたら、彼に会えるのだろうか。私は歩いた。歩き続けた。歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて…。どのくらい歩いてるのか。いつから歩いてるのか。どこへと歩いてるのか。どうして、どうして歩いてるのか。…どうして、歩いてたんだろう。
座り込む。足から出ている線に気付く。
  私の足から線が出ていた。細い、細い線。微かに光っているようにも見える。どこへと続いているのか。
  ……はぁ。
  ……………………。
  誰かがやってくる…誰だろう……あぁ、懐かしい…あなたに……
  遠くで私の体が枯れていく。最後に花を残して。



おわり


一覧ページに戻る